河野透が、クローン病、大腸がん、抗癌剤の副作用について、最前線の医療現場の情報をお伝えします。

河野main.psd


HOME > 外科手術でクローン病の再手術を防ぐ ついに夢物語が現実に

外科手術でクローン病の再手術を防ぐ ついに夢物語が現実に!

河野 透
消化器病態外科学分野
旭川医科大学外科学講座 

はじめに

腸管切除後の腸管吻合部、特に口側腸間膜付着部から再発、再狭窄が起こることが多い。その原因は不明だが、血流が関与していることが推察されている。クローン病腸管は健康人と比べて血流が半分に低下していることが報告されている1, 2)。その原因として血流をコントロールしている神経組織が繰り返す炎症で破壊されているからだと考えられている。また、腸管血流はクローン病潰瘍病変の治癒促進に重要内因子であるばかりでなく、クローン病腸管切除後の吻合部再発の原因の一つとして吻合部の腸管血流低下が考えられている3)。クローン病変の好発部位は腸管の腸間膜付着部であり、腸間膜付着部を吻合部の一部となる端端吻合は、吻合部再発が吻合部そのものに起こることになる。その点、腸間膜付着部対側の腸管壁を吻合口とする側側吻合は吻合部再発の影響を受けにくい。また、吻合部の血流から考えても、側側吻合が多く選択されている4-6)。クローン病腸管を手術する際には血流、神経、再発部位に十分な配慮が必要であるが、これまでの手術法が十分な配慮の元に行われてきたとは言えない。本年、アメリカ消化器病学会でわれわれが考案した新しい吻合術式、S式側側吻合法(旧K式吻合)とその臨床成績が報告された7)。

S式側側吻合術の基本コンセプトと成績

基本コンセプト

クローン図1.png

新吻合法の基本コンセプトは6つの重要な基本因子の組み合わせから成り立っている。
1)吻合部腸管の血流と神経支配を可能な限り維持する。
病変部腸管を切除する際に、腸間膜血管処理を行うが、従来、癌の手術と同様に腸間膜をおおぎ型に切除していたのを止めて、腸管近傍で切除し、吻合部への血流と普段は意識しない神経を温存する。(図1)

クローンS字.png

2)柱による変形防止が効果的にするために、柱の中央に再発部位である腸間膜付着部を持ってくる。
病変腸管切断にはリニアカッターなどステープラー自動切断縫合器を使用するが、切断ラインは腸間膜に直交するようにする。その結果、腸間膜付着部腸管壁がステープラーで縫合された切断ラインの中央に位置することになる。(図2a)
3)吻合部再発が起きても吻合口が変形、狭窄しないように吻合口のすぐ近くに柱となるような構造物を意図的に作る。
ステープラーによって縫合された切断端を口側、肛門側の両者を縫合する。縫合することで強固な支柱(Supporting column)となって吻合口近傍、背側に位置する。は吻合部再発が最も多く始まる部位である腸間膜付着部が支柱の中央に位置することで、潰瘍病変から狭窄変形への移行が支柱によって長期間防ぐことができる。(図2b)
4)吻合口は再発部位である腸間膜付着部から最も遠い腸間膜対側腸管壁を利用する。
吻合部再発、クローン病自体腸管病変は主に腸間膜付着部の腸管壁から始まる。したがって腸間膜付着部が吻合口となる端端吻合は避けるべきで、腸間膜付着部対側の腸管壁を利用した吻合が選択される。(図3c)
5)吻合はハイネッケン•ミクリッツ法を応用して可能な限り大きな吻合口にする。
狭窄形成術であるハイネッケン•ミクリッツ法を応用して腸管軸に沿って腸間膜付着部対側の腸管壁を切開し、切開線に直交するように開き、吻合口がフラスコの底様にする。腸管壁切開は腸管切断端から1cm離した点まで行う。(図2d)
6)内視鏡的観察や拡張治療がしやすい吻合。
このS式吻合の利点は支柱が吻合口の変形を最小限に食い止めるだけでなく、腸管軸が端端吻合に近似した吻合であるため内視鏡的観察や治療を容易にすることができる。(図2e)
これまでの吻合法はクローン病の再発パターンを考慮しないで行っているため、腸間膜側に起こる再発病変の影響を直接的に受けてしまい、再発から狭窄への移行が短時間で起こる可能性が高かった。つまり、いくら大きな吻合口を作っても無駄になってしまうわけである。(図3)現在、国内では藤田保健衛生大学、広島大学などで追試が行われており、海外では米国政府公認(全米7施設)炎症性腸疾患センター病院の一つであるシカゴ大学でKono-S-anastomosisとして2010年5月から臨床導入されすでに10例以上行われ短期成績は良好で、前向き臨床試験が計画されている。

S式吻合の臨床成績

クローン再発率.png
従来式の吻合法で行われ、吻合部観察が可能だった73例(1993年1月から2003年8月)と2003年9月から2009年12月までに行われた69例のS式側側吻合(回結腸46、小腸小腸40、大腸大腸4)の成績を比較した。(図4)従来型の吻合では吻合部再発による再手術率が術後5年間で15%と良好な成績ではあったが、術後にレミケードを使用できなかった場合はさらに悪化していた。それに比べてS式吻合では吻合部再発による再手術症例は全くいなかった。つまり、術後5年間の再手術率0%で、術後にレミケードを使用していなくても0%である。われわれが目指したもの(夢物語)が現実となった。
おわりに
これまでの吻合法は癌などを切除し、消化管再建法として確立してきたもので、クローン病に特化した消化管再建法ではなかった。これに対してS式側側吻合法はクローン病の特徴を十分に配慮した世界で初めての吻合法であり、外科的手術で病変部は摘出できても再発は防ぐことができないという従来の概念を覆すような中長期成績が得られた。

文献

1.
Hulten, L, J Lindhagen, O Lundgren, et al: Regional intestinal blood flow in ulcerative colitis and Crohn's disease. Gastroenterology 72; 388-96:1977.
2.
Carr, ND, BR Pullan, and PF Schofield: Microvascular studies in non-specific inflammatory bowel disease. Gut 27; 542-9:1986.
3.
Angerson, WJ, MC Allison, JN Baxter, et al: Neoterminal ileal blood flow after ileocolonic resection for Crohn's disease. Gut 34; 1531-4:1993.
4.
Fazio, VW, F Marchetti, M Church, et al: Effect of resection margins on the recurrence of Crohn's disease in the small bowel. A randomized controlled trial. Ann Surg 224; 563-71; discussion 571-3:1996.
5.
Sica, GS, E Iaculli, D Benavoli, et al: Laparoscopic versus open ileo-colonic resection in Crohn's disease: short- and long-term results from a prospective longitudinal study. J Gastrointest Surg 12; 1094-102:2008.
6.
Regueiro, M: Management and prevention of postoperative Crohn's disease. Inflamm Bowel Dis 15; 1583-90:2009.
7.
Kono, T, Y Ebisawa, N Chisato, et al: A new combined stapled and hand-sewn side-to-side anastomosis after resection for Crohn's disease Gastroenterology 138; S691:2010.