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河野透の主な研究テーマ

研究テーマ:遺伝的要因の探索によるクローン病の発症機序の解明(研究代表者 河野 透)

日本人のクローン病患者のゲノム解析を中心に遺伝的要因の網羅的解析を実施し,発症機序を解明するとともに,個々の患者の特徴とゲノム情報との関連性を明らかにする.
旭川医科大学病院および広島大学病院にて,クローン病の患者,類縁疾患患者,健常者の口腔粘膜細胞を使用する.試料からDNA抽出を行い広島大学自然科学研究支援開発センターにてGenome-Wide Human SNP Array 6.0での解析を行う.クローン病の発症機序を遺伝的要因という視点から解明する試みが世界中で行われており,特に欧米の患者のゲノム情報の網羅的解析(ジェノタイプ,コピー数多型)によってクローン病特異的なゲノム領域の異常がいくつか見つかっている.一方,日本人のクローン病患者におけるゲノム情報の解析に関しては,いくつかの報告でジェノタイプの解析が行われているが測定した項目が少なく,コピー数多型の解析は行われていないため,発症機序などを解明するためには十分ではない可能性がある.本研究では,日本人のクローン病患者のゲノム解析を中心に遺伝的要因の網羅的解析を実施し,発症機序を解明するとともに,個々の患者の特徴とゲノム情報との関連性を明らかにすることで,診断精度の向上に加え,早期診断・早期治療,治療方針決定,再燃・再発の推定を可能にすることを目指している.

研究テーマ:FOLFOX療法に起因する末梢神経症状に対する牛車腎気丸の有効性を検討する

二重盲検無作為化比較第Ⅱ相臨床試験(GONE試験、研究代表者 河野 透)

牛車腎気丸は、10種類の生薬を含有する漢方製剤であり、その作用機序については不明な点も多いが、下行性鎮痛抑制系の活性化により痛覚伝達物質の放出を抑制し、しびれや疼痛に効果を発揮すると推定されている。さらに、本邦では、そのしびれに対する効果の応用として、taxane系の化学療法や大腸癌の代表的抗癌剤であるオキサリプラチンにおける末梢神経障害への有効性が、レトロスペクティブに報告されていることから、FOLFOX療法に起因する末梢神経症状に対する有効な支持療法を確立するために、牛車腎気丸とそのプラセボを用いて二重盲検法を用いてプロスペクティブに検討する。化学療法未施行の進行・再発大腸癌を対象に、FOLFOX(L-OHP)投与開始日から8コース(回)投与終了後の末梢神経症状の発現率(Grade≧2)を主要評価項目として、プラセボ併用群に対する牛車腎気丸併用群の優越性を検討する。

研究テーマ:大建中湯によるクローン病腸管再手術率低下を目指した基礎研究(文科省科学研究基盤)

大建中湯は臨床で高い実績と信用を得た漢方薬でありながら、そのEBMは必ずしも十分とは言えず、薬効発現の本質的な機序が不明であった。腸管吻合部の縫合不全、狭窄、癒着発生を最小限にして治癒を高めるには、虚血状態をできる限り短縮することに有効と考えられている。特に、血流低下が著しいクローン病腸管では、吻合部狭窄、癒着が起こりやすい。そこで、外科領域で汎用される大建中湯の薬効発現の本質が腸管血流増加作用にあると想定し、クローン病動物モデルをはじめとした虚血を伴うin vivo系で、同剤の有効性を検証する。われわれは、ラット腸管血流測定系を用いて大建中湯の血流増加作用を確認し、その作用機序を実証した。本作用発現には神経組織由来のCGRP (calcitonin gene-related peptide)と非神経組織、特に腸管上皮細胞由来のADM (adrenomedullin)が深く関与することを明らかにしてきた(J Surg Res 2008:150,78-84; Surgery 2009:146,837-40; J Crohns and Colitis (22.DOI: 10.1016/j.crohns.2009.09.006)。これら二つのカルシトニン系ペプチドは血管拡張作用をもち末梢微小血管の血流循環を制御し、腸管免疫機能の維持、さらにはクローン病動物モデルでの治療効果が報告されている(Gut 2006:55,824-832; J Pharmacol Exp Ther 1999:286,657-61)。クローン病は診断がついて10年以内に60%以上の患者が主に腸管狭窄(イレウス)が理由で手術を受け、術後再手術率は5年で20-45%と報告されている。特に、腸管吻合部からの再発が必発で、消化器外科領域で解決すべき難題となっている。原因として必然的に起こる吻合部血流低下が重要な因子であると言われている。ヒトのクローン病腸管自体、CGRP低下による血流異常が報告されており、腸管血流低下が狭窄病変形成に寄与していると言われている(Ann N Y Acad Sci 1992:657,319-327)。しかしながら、ヒトに外来性のCGRPやADMを投与することは不可能で、その理由は、外来性に投与されても極短時間で分解され、目的とする病変部に到達できないだけでなく、循環系への副作用が出るためである(Gut 2006:55,824-832; J Pharmacol Exp Ther 1999:286,657-61)。最近の研究でADMにTNF-α、IFN-γ抑制効果が報告され(Peptides 2008;29,2001-12; J Immunol 2007;179,6263-72)、現在、クローン病の特効薬的治療剤であるインフリキシマブ(抗TNF-α抗体)と同じ作用ターゲットを有している可能性が出てきた。そこで、われわれはこれまでの研究結果から(J Surg Res 2008:150,78-84; Surgery 2009:146,837-40; J Crohns and Colitis (in press))、大建中湯が内因性のCGRPとADMのactivatorであることを利用して、クローン病の治療、特に、術後の再手術の大きな要因となっている吻合部血流低下の改善やクローン病再発防止に貢献できないかという発想に至った。

研究テーマ:トランジェントレセプターポテンシャル活性化因子としての大建中湯の有効成分同定と薬効機序解明(厚生労働省研究先端的基盤開発 申請中)

大建中湯(DKT)は日本独自の生薬である山椒と乾姜、人参、膠飴から構成され、最も多く使用され高い臨床実績のある漢方薬であり、古来の薬効である腹部の冷え・膨満感の改善に加えて、術後の腸管癒着、腸閉塞の予防・治療に用いられる[Kono, Surgery 2009;146(5): 837-840]。また、慢性的な血流低下が病因論的に関与するクローン病にも用いられている[Gut 1993;34:1531-1534]。しかしながら、多くの臨床報告を裏付ける薬効機序解明は遅れていた。これまでは、腸管の運動や血流を指標とした動物モデルで有効とする知見は国内外で複数あったものの、その機序解明にあたっては、拮抗剤の併用投与系や摘出腸管系が使用されてきた。前者では特異性に問題があり、後者では管腔外からのシグナルを入れる問題や収縮弛緩の解釈に異論があった。また、研究の質を考慮しないままに、各研究成果が引用されたために、データ間に矛盾が生じ、薬効機序を考察するにあたり大きな混乱を伴った。私達は、2008年、DKTの薬効機序を動物および培養細胞を用いて分子レベルで解析した結果、血管拡張作用があるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)およびその受容体関連因子を介したDKTの腸管血流増加機序を正常動物で明らかにした[Kono, J Surg Res. 2008; 150: 78-84]。2009年には、CGRP類似ペプチドであり、血管拡張作用と炎症性サイトカイン抑制作用があるアドレノメデュリン(ADM)を介したDKTの腸管血流増加、クローン病動物モデルでの腸炎抑制の作用機序の一部を明らかにした[Kono, Surgery 2009;146(5): 837-840 , J Crohn’s Colitis 2009 in press]。有効成分同定に関して、DKTの主成分である山椒のhydroxy-α-sanshool、乾姜の6-shogaolが神経細胞内CGRP,腸管上皮細胞内ADMを刺激・分泌することまで明らかにしたが、DKT成分の分子学的な刺激機序が依然不明である。腸管癒着、腸閉塞予防や治療に関する機序も現時点では全く不明である。そこで、これら二つの点を明らかにすることが本研究の主な目的である。漢方の有効成分を同定し、薬効機序を分子レベルで解析を行う本研究は漢方領域では極めて独創的である。